その日の夕方、養母が食事を運んでくると、
タカヒロはポカンとしてため息をつきまたポカンとしてため息をつく。
そんな感じで少しも食べようとしません。
「一体どうしたんだいタカヒロ?
いつも元気なお前が病気でもしたのかい?
それとも悩み事でもあるのかい?」
「はぁ……どうしよう……はぁ…」
タカヒロはうわの空でもの思いにふけり、
それから何時間もそのような調子だったので、
養母はタカヒロが壊れてしまったと心配でたまりません。
しばらく様子を見てから、養母はタカヒロにたずねます。
「お前のおかげで暮らしぶりもずいぶん良くなって、
わたしもネコもガリガリだったけど、ほらこんなに元気になったよ。
これもすべてお前が新しい仕事をはじめて頑張ってくれているおかげさ。
でも今日は…なんだか様子がヘンだよ。
医者の卵が近くにいるから呼んできてあげようか?」
「…もうダメだ…母上…ボク死にそう…」
タカヒロが口を開くと、胸いっぱいの熱い想いがあふれます。
「今日、姫様という人をはじめて見たんだ。
ベールをあげてその素顔を見て……
こ、この世のものとは思われないほどの美しさでさ…
ボクの心は蝶になって空を飛びはじめたんだ!」
「ちょ、ちょいとお待ちタカヒロ。
な、何を言っているのかさっぱり分からないよ。
でも、今姫様っていったのかい!?
もしかしてお前がいっているのはこの国をおさめる
王様の1人娘、ミア姫さまのことじゃ…」