養母は大きなため息をつくと、目を見てハッキリ言いました。
「タカヒロや…お前は自分が一体どこの誰でどんな身分かをよく考えなさい!
お前の養父はこの国で一番貧しいネコ屋だったし、
私も誰もやりたがらない仕事を
何とか市役所に頼みこんでやらせてもらってる身なんだよ…
それに頭だってちっとも良くないし、これぽっちも誇れるような家柄でもない。
それなのにどうして王様の娘との結婚を申しこむことができるの?
王様はすばらしい人柄や血筋のいい立派な方に姫さまを嫁がせるはずだよ」
タカヒロは塩をかけられたナメクジみたいにシュンとしてしまいました。
忠告がもっともだったからです。でもしばらくすると…
「母上はボクのことが嫌いなんだ、そうでしょう?だから、
ネコにしか興味のないボクが人を好きになるなんておかしい…
そんな風に思っておられるのですね」
「な、何てことを…そうじゃないよ。私はただ…」
タカヒロは跪きました。
「母上が本当にボクのことを愛してくれてるなら、
頼みをきいて下さるはずです。お願いです。
だってボクはあのお姫さまといっしょになれないなら生きる意味がありません。
いつ死んでもおかしくない貧乏生活を長くいっしょに耐えてきたんです。
これがお互い顔を見る最後になってもかまいません。それくらい真剣なんです。
血はつながっていませんがあなたの息子です。どうか信じてください、母上!」
「そうじゃないんだよ、タカヒロ…
もちろんお前が結婚を望むんだから心から応援するさ。
でもね、お前が何をしている人かと王様に聞かれたとき、
ネコのケガや病気の治療をしてると答えるのかい?
同じ貧しい人たちにも正直答えるのが恥ずかしいんだよ。
なのに王様のたった1人のお姫さまをさ……フ、フフフ…
自分で言っていて笑ってしまうくらいなんだよ…」