「コホン、まずお尻を隠すとしよう。さぁタカヒロ、
この世でまだ誰も経験したことがない素晴らしい世界をみせてやろう」
こういって、懐から小さな箱をとりだすと、
「さぁ、目をとじるんだ。そうすれば目の前は真っ暗になるはずだ。
そして、心の中でしっかりとたき火をイメージしてくれ。」
おじが一体何をしたいのか全く分からないタカヒロは、
言われるままたき火を心の中に描きました。
心の中でたき火はどんどん大きくなりタカヒロにせまってきます。
魔法使いは小箱をあけると、ネコの大きな毛玉を取りだしました。そして、
「エロイムエッサイム♪エロイムエッサイム♪」
と、呪文をとなえながらゴワゴワした毛をつまんでタカヒロにふりかけます。
と、どうでしょう。タカヒロのイメージの中に
突然まっ黒な化けネコがあらわれ、前足で地面をたたいてグラグラゆらすと、
目からすさまじい稲光を発して「ゴロゴロニャーーー!」と鳴いたのです。
タカヒロはすっかり恐ろしくなって心に描いたイメージから逃げようと
目を開けようとしましたが、魔法使いはタカヒロの目に接着剤をぬって、
ものすごい力でまぶたを閉じました。
「そのままじっとしておれ!」
というのも、タカヒロが描くイメージでないと
せっかく探しあてた秘宝へつづく扉が開かないからです。
目玉がウナギのように暴れまわり、
ひどくまぶたを押さえつけられたタカヒロはあわてました。
「あれ……め、目が開かない!?」
「恐れるな!よいか、ワシの言うことをよく聞くのじゃ。
お前は心の目というものを知っているか?『心眼』というものだ。
ワシはその心眼で今お前の描くイメージをいっしょに見ている。
いいか、心を研ぎ澄ますのじゃ。
何かが近くまで来とるのがわかるか?
お前のすぐ近くにさっきの化けネコが隠れておる。
それを見つけだせるのはお前の心眼だけだ!!
早く見つけだないとネコが逃げてしまう。
そうなったら、お前は仮想現実から永久に出られなくなるぞ!」
魔法使いの話が本当なら、さっきのことを気にしている場合ではない!
タカヒロは接着剤をぬられたことをすっかり忘れて、
初めてきいた心眼というものででさっきのネコを探しました。
「ど、どこに隠れているの?…全然わかんないよ…」
たき火も消えてあたりはすっかり真っ暗。
タカヒロはただ魔法使いの声に耳をかたむけるしかありません。
「自らの心を恐怖で閉ざしてはならぬ!心配や恐れを一掃しろ!!
そして、心の目を凝らしてまわりをよく見るのじゃ」