さてこちらは、自分がつくった仮想の世界に閉じ込められたタカヒロ。
ネコの口から光がみえなくなって、
「インチキおじさんの隕石頭!!」と叫んでいました。
悔しがっても仮想世界はどんどん暗くなるし、
時計もどんどんうすれて消えていきます。
タカヒロはやっと、おじにまんまとだまされたことと
彼がおじでないことに気づいたのです。
ネコの口から出れないとわかって、
タカヒロは時計の階段を下までおりて
裏階段に入ろうとしたけど、もう手遅れ。
セメントのようにカチコチに固まった扉は
おしてもひいてもびくともしません。
タカヒロはふたたび階段をのぼって時計の所までもどると、
涙を流し自分の愚かさと能天気さを深く反省しました。
三日三晩なにも食べず、なにも飲まず、
タカヒロはひたすら自分と闘っていました。
そして、しまいには自分の限界を感じて、
生きることが嫌になってしまいます。
彼はしだいに野良ネコのことしか頭に浮かばなくなり、
(ネコたちは元気にしているかなぁ…
町のどこかで派手にケンカしてるかなぁ…
相変わらず昼も夜も寝てずっと寝てばかりだろうなぁ…フフフ)
ネコのことを考えると少し気持ちが軽くなりました。
横になりスヤスヤ寝息をたてようとしたとき、
あの魔王使いがくれたUSBメモリがコロンと目の前にあらわれ、
それを何気なくおでこに差して回してみたのです。
するとどうでしょう。
たちまち、色あせてヘドロのようだった仮想現実が
イキイキと躍動しよみがえったのです。
「ヤッター!データが復元されたぞ!
そうか、頭の回転がはやくなって
記憶力が良くなったからこの世界が元に戻ったんだ!」
鮮やかによみがえっていく仮想世界をみてタカヒロは身震いしました。
(すごい!頭が良くなるってこんなにも素晴らしいんだ…
よ~し!自分のイメージでこの世界が変わるんなら…)
望みが出てきて自信をとり戻したタカヒロは、
「この世界をボクといっしょに創ったネコよ!
ゴロゴロ喉をならしボクを吐き出しておくれ!」
そう強く願うと、仮想世界全体がはげしく震えだし…
「ゴロゴロ…ゴロゴロ」と地響きのような音がしたかと思うと、
地面が裂け中から巨大な毛玉が吹き出してきたのです。
そして、タカヒロをもちあげると
いっしょに外に吐き出したのでした。
タカヒロの体はデジタルからアナログに変換されると、
やっと元の現実に戻ることができました。
長い間接着剤を塗られていた目は、
すっかり開かなくなって何も見えません。
心眼もおなかが減っては全く使えません。
石につまづき壁に頭をぶつけながら、
タカヒロはようやく家にたどりついたのでした。