タカヒロはすっかり絶望し、ミアがどこにも感じられなくなって、世界ももうどうでもよくなってしまいました。 (…ミアがいなくなって……どうして…がんばれるだろう…) じっと座って黒い渦がのみこんでくれることを待ちます。 (ミアの所に…ボクも行く……)
涙が頬をつたいミアとの想い出が走馬灯のように通りすぎてゆきます。 ハッとしました。 「み、ミアは…消えていない!今も想い出のなかで生きている。何もかも無にする黒い渦にのみこまれたら、ミアのことを想うことも思い出すこともできないはずなのに…」
タカヒロはどこかにいると信じてミアを必死でさがしました。でも、探せば探すほどなぜか胸が痛むのです。 タカヒロとミアにとってこれが最後の試練でした。姿が見えなくなっても、何も感じなくても相手を信じれるか?
「………」 かすかな声も聞き漏らすまいとしていましたが、深い沈黙がつづくだけでした。 しかし、なぜかその長い沈黙の中にミアがいる気がするのです。 その沈黙こそ、ミアが本当に伝えたいことなのだと…
タカヒロはもう無我夢中で沈黙に寄りそいました。 怒るとこわい養母が1度だけ、タカヒロにマジ切れしたことがありました。行方不明になって3日も姿を見せないネコをほっぽってほかのネコたちと遊びに夢中になっていたときです。何も言わず怒りもせず話しかけても決して口をひらかなかったのです。