昔、ある国に、貧乏なネコ屋が住んでた。
このネコ屋には”タカヒロ”という近所で宇宙人と噂される子どもがいましたが、
幼いのにいつも何を考えているのか分からない不思議な子でした。
タカヒロが初めて口にした言葉は、「ネコ…」で、
ひきとって10年がたったときのことです。
養父はタカヒロにネコ屋の仕事を教えこもうとした。
ところが、タカヒロは自分の興味のないことには、全く関心を示さないうえ、
いつも街の野良ネコたちとの集会があるといって、1日として店の中にじっとしておりません。
野良ネコたちに混じってひなたぼっこやゴロゴロ転がっているばかりです。
しかっても、こらしめても、どこ吹く風でさっぱりききめがありません。
養父のネコ屋は、ネコのようになまけてばかりいるタカヒロにすっかりあいそをつかし、
とうとう気がおかしくなって夜中に散歩するようになると、どこかへ行ってしまいました。
しかし、タカヒロはいっこうに平気なものです。
前と同じように野良ネコと遊びまわっておりました。
タカヒロがさっぱりあてにならないうえ、
近所では「タカヒロは宇宙人だ」とうわさが立つので養母はネコ屋のお店を売りはらって、
お役所の集金人の仕事をはじめました。
もう、養父の怒ったり悲しむ顔を見なくなって、
タカヒロは今までよりもノビノビとネコとなまけるようになりました。
養母が保険のお金を払わない人のところに行って、
怖い思いをしながらせっせとお金を集めているのに、タカヒロが家に帰ってくるのは、
ネコのノミ取りと食事のときだけというありさまでした。
そのうちにタカヒロは頭にはえていたうぶ毛がすっかり抜け落ち15才でスキンヘッドになりました。
ある日のこと、タカヒロが町でネコたちとたわむれていると、
突然男がタカヒロのそばにあらわれました。
ネコたちがのんびりお昼寝をしている姿を、ものめずらしそうに見ていましたが、
ネコの中につるつる頭の子どもがいるのを見て、ハッとしたようです。
鋭い目付きで、タカヒロの様子を探りはじめました。
この男は、大きな卵から生まれた獰猛な人間で、魔法を使うことが得意でした。
「これこそ、探し求めていた少年だ。
わざわざライオンの体から生まれ出てきたかいがあるというものだ」
男はニッコリ笑いました。
さっそく、子どもの1人をひっぱってきて、根掘り葉掘りたずねました。
「あの子はいったい、どこのどういう子どもかな?」
その後で、ゆっくりタカヒロのそばにやってきました。
「ひょっとすると、お前さんは、これこれこういうネコ屋さんの養子ではなかったかな?」
「うん、おじさん。だけど、父上はもうだいぶ前に家を出て行ったよ」
ところが、タカヒロのこの言葉を聞くと魔法使いはいきなり泣き出したのです。
タカヒロは戸惑いました。
「いったいどうして、涙を流すの?それに、おじさんはどうして父上のことを知っているの?」
「じつは、お前の養父はワシの本当の兄貴だ。長いことワシは別の国に住んでいたが、
今度、やっと兄貴に会えると思ってやってきた。
それで、お前からこの悲しい知らせを聞いたというわけなんだ」
「それでも、野良ネコがたくさんたむろしていたが、その中にお前がいて、
兄貴の子だと一目で分かった。やはり兄貴のネコ好きがおまえにも伝わっているんだなぁ」
こう言って魔王使いは、まタカヒロをヒシと抱きしめました。
「なぁタカヒロ、ワシにはもうお前以外には身寄りがないんだ。
お前はワシの甥だから、いわばワシは父親代わりというわけだ」
そういいながら、魔法使いは懐からキラキラ輝くまばゆい
ダイヤモンドをとりだしてタカヒロに渡すと、家はどこかとたずねました。
タカヒロは家に行く道を教えました。
「それでは、そのダイヤをお母さんに渡して、ワシがよろしく言っていたと伝えておくれ。
明日ごあいさつにうかがい、行方不明の兄に代わってサポートするために帰ってきた、と」
タカヒロはすっかり嬉しくなって一目散に家に戻りました。
家について養母の姿を見るなり、このことを述べました。
しかし、養母はなかなか信じようとしません。
「そりゃ、叔父がいたことは知っているよ。けどね、その叔父はとっくの昔に亡くなっているよ。
それ以外に叔父がいたなんて話は、一度も聞いたことがないよ」