あわてて運転席から出てきた付き人らしい人が姫様の手をつかみました。
「ネコなんかほっといて、早くお車にお乗りください」
しかし、姫さまはその手をふりほどくと
ペラペラになったネコをスカーフにくるんであたりをみわたします。
ちょうどその時、ネコの悲鳴をきいて小屋から出てきたタカヒロと目があったのです。
タカヒロは急に心臓がバクバクドキドキして目がくらみました。
あわてて扉のかげに姿をかくすと、冷や汗をぬぐいます。
(ボクがいま…み、見たのは一体なんだ?? と、とても信じられない…)
目はランランと輝き、タカヒロは何度もホッペタをつねってみました。
女性が近づいてくると心臓がバクバクして顔が真っ赤になります。
そして、自分の顔や姿が恥ずかしくなってしまいました。
あわててフードを深くかぶると小屋に逃げ込みました。
追うように店にやってきた女性は、
タカヒロの前にたつとベールをもちあげ声をかけました。
「ネ、ネコが車にひかれて大変なんです。あなたの力をかしてください」
タカヒロはおもわず声をあげてしまいます。
輝く太陽のような…そしてつぼみのように美しく初々しい顔でした。
それから何をしたのか?
頭が真っ白になり、記憶がありません。
ネコの脈をとったりレントゲンをみたりしていたようですが…
姫さまという女性がそばにいると、夢の中にいるみたいでした。
ネコは呼吸がとまっていましたが、何かの拍子で息がふきかえすと、
ペシャンコだった体もふくらみはじめ、ぶじ元に戻ったのです。
最後に女性は輝くような笑顔を鮮やかに残して去っていったのでした。